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[ 2017.06.10 ]

大動脈弁疾患に対する自己心膜を用いた大動脈弁尖再建術
-福岡県内初の取り組み[心臓血管外科]
九州大学病院心臓血管外科は、これまでにさまざまな最新治療や特殊治療を提供することで、数々の重症心疾患で苦しむ患者さんの命を救い、生活の質(Quality of Life:QOL)の向上に努めてきました。今回、福岡県内初の取り組みとして、大動脈弁疾患に対する新たな手術法「自己心膜を使用した大動脈弁尖再建術」を導入しました。この方法により、さらなる治療効果と患者さんのQOLの向上に役立つことができると考えていますので、ご紹介いたします。


心臓血管外科  塩瀬科長(中央)をかこんで。手術室にて




図1 大動脈弁が石灰化し、硬化している様子

大動脈弁疾患について
心臓の出口に相当する大動脈弁は、3つの弁尖で構成され、逆流防止弁の役割を果たしています。その大きさは直径20-25mmほどです。心臓から駆出される血液はすべて大動脈弁を通過し、大動脈弁は血液の流れに従って1日に約10万回開閉を繰り返します。大動脈弁は、つねに大動脈からの強い血圧を受け続けるために、動脈硬化や弁の変形をきたしやすい部位といえます。

動脈硬化が進行して大動脈弁が石灰化すると、弁の動きが障害されてスムーズに開閉ができなくなります。その結果、心臓から身体へ血液が駆出されにくくなり、心不全や失神・狭心痛といった症状を発症するようになります。これを「大動脈
弁狭窄症」(図1、2左)と言います。

大動脈弁狭窄症は、近年の高齢化に伴い、急激に増加している疾患の1つです。いったん症状が出現した後の予後は2年程度といわれ、たいへん予後不良な疾患です。大動脈弁狭窄症は薬物治療での改善を望めないため、外科的治療が治療の基本となります。

一方、弁の変形により弁尖どうしの接合が不良となり隙間が開いてしまうと、逆流防止弁の役割を果たせなくなります。その結果、大動脈からの血液が心臓へ逆流してしまい、心臓が拡大して心不全を生じるようになります。これを「大動脈弁閉鎖不全症」(図2右)といいます。大動脈弁狭窄症と同様に、大動脈弁閉鎖不全症も薬物治療での改善を望めないため、やはり外科的治療が治療の基本です。近年では、心臓が拡大して心不全を生じる前に手術介入する方がよいといわれています。

図2 大動脈弁狭窄症と大動脈弁閉鎖不全症(日本心臓財団ホームページより改変)

従来の治療法(大動脈弁置換術)
現在、大動脈弁疾患に対して広く行われている外科的治療は、「“人工弁”を用いた大動脈弁置換術」です。人工弁には生体弁と機械弁の2種類があり、それぞれに人工弁特有の問題点があります。とくに、耐久性とワーファリンによる抗凝固療法の必要性については、それぞれに有利な点と不利な点があり(図3)、患者さんの年齢や生活スタイルなどを考慮してどちらの人工弁を使用するかを決めています。

図3 機械弁と生体弁との比較

また、人工弁は構造上ステント骨格の中に弁があるため、その有効弁口面積は正常ヒト大動脈弁よりも必ず小さくなります。体格の小さな日本人では、十分な大きさの人工弁が使用できず術後に問題となることがあります。近年の人工弁の発達は著しく、これらの人工弁特有の問題点は大きく改善してきていますが、正常ヒト大動脈弁には大きく及ばないのが現実です。

新たな治療法「自己心膜を使用した大動脈弁尖再建術」

上記のような問題点を解決する試みとして、さまざまな術式による大動脈弁形成術が臨床に導入される動きが、近年目立つようになりました。なかには、既存の人工弁と同等もしくはそれ以上の成績が報告されています。今回、当科では、「グルタールアルデヒド処理をした自己心膜を用いた大動脈弁尖再建術」(図4)を新たに臨床導入しました。


図4 「グルタールアルデヒド処理をした自己心膜を用いた
大動脈弁尖再建術」の遠隔成績
(Ozaki S,et al. Circ J 2015より引用)



図5 左:心臓前面の心膜(矢印)を採取
右:グルタールアルデヒドでの処理


6 左:1尖に破壊と接合不良あり(矢印) 右:自己心膜での弁尖再建(矢印)

通常の大動脈弁置換術と同様に、人工心肺を使用し心停止下で手術を行います。「自己心膜」とは、自分の心臓を包む膜のことで、これを切り取って弁尖再建の材料とします(図5)。心膜をグルタールアルデヒドで処理することで、弁尖として機能するための強度を得ます。病的な自己大動脈弁の弁尖を切除して、適切な大きさに切り取ったグルタールアルデヒド処理自己心膜で、新たな弁尖を元の形状の通りに縫合します(図6)。 


「自己心膜を使用した大動脈弁尖再建術」は、自己組織のみでの手術であるため、ワーファリンによる抗凝固療法を必要とし
ません。抗凝固療法を行うことが望ましくない患者さんにとっては本法はたいへん有効と言えます。また、体格の小さな患者さんについては、正常と同等の有効弁口面積を確保することができ、術後の心機能維持に寄与することができます。

さらに、弁尖ごとに再建を行う本手術法では、病的な自己弁のみを再建することが可能なため、ひとつもしくはふたつの弁尖のみを再建し、残りの健常な弁尖を温存でき、術式の選択も広がることが期待されます。耐久性も十分に期待できるため若年者にも適応できる可能性があります。 
すべての大動脈弁疾患の患者さんが「自己心膜を使用した大動脈弁尖再建術」の適応となるわけではありませんが、治療選択肢が増えることは、患者さん一人ひとりにより適した治療法の選択につながります。当科では、患者さんのニーズにあった治療を心がけています。お気軽にご相談ください。



大動脈弁疾患に対する自己弁膜を用いた大動脈弁再建術に関する相談・紹介は随時受け付けています。


心臓血管外科外来
TEL 092-642-5565 (
初診日:火
  http://cs1.med.kyushu-u.ac.jp

 

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