胸部領域 肺 内視鏡外科手術

2023年04月1日

胸部領域

肺がん、自然気胸、縦隔腫瘍

呼吸器外科 診療講師 竹中 朋祐

胸部領域の内視鏡手術について、
呼吸器外科 診療講師 竹中 朋祐が回答します。 

呼吸器領域の内視鏡手術は、いつ頃から始まりましたか?どのくらいの症例数がありますか?


表 1 内視鏡手術術式内訳(2022年 1月―12月)
まず呼吸器外科とは胸の中で心臓・大血管、食道を除くすべての臓器(気管支・肺、縦隔など)を対象とし、疾患も原発性肺がんをはじめ転移性肺腫瘍、縦隔腫瘍、胸壁腫瘍、自然気胸など多岐にわたり、それぞれ手術で切除する部位、範囲およびそのアプローチ法が異なります。

呼吸器領域の内視鏡手術である胸腔鏡を用いた手術は、当科では1992年から自然気胸の手術(肺のう胞切除)や胸膜病変の組織検査(生検)に用い始めました。 その後、自動縫合器や超音波メスなど内視鏡用器機の導入に伴い縦隔腫瘍や肺がんの手術にも適用するようになりました。現在では、年間約250例の呼吸器外科手術症例の7割以上は内視鏡外科手術(胸腔鏡手術またはロボット手術)で行っています(写真)。

 
  • 写真 1 完全胸腔鏡下手術の風景

  • 写真 2 ロボット手術の風景

手術の適応についてお聞かせください


表 2 手術対象疾患(通常の手術、内視鏡手術含む)(2022年 1月ー12月)
内視鏡外科手術(胸腔鏡手術またはロボット手術)の適応は、疾患とその進行度、切除範囲で異なるため、一概には言えません。
自然気胸や早期の肺がん、肺の腫瘍性疾患で肺部分切除の適応となる場合(良性腫瘍や転移性肺腫瘍など)、ほぼ全例を胸腔鏡下で行っています。また、縦隔腫瘍で腫瘍径が小さく(3cm以下程度)、周囲臓器への浸潤がない場合には、胸腔鏡下またはロボット支援下に行っています。
早期肺がんに対する肺葉切除、区域切除も、ほぼ内視鏡外科手術(胸腔鏡下またはロボット支援下)で行っています。高齢の方でも行うことができます。ただし、過去に肺の手術歴がある方や、結核治療後の方などは、内視鏡外科手術が困難な場合もあり、開胸手術となることがあります。
一方、リンパ節転移が広範囲に認められる、がんが他臓器(胸壁、心臓、大血管など)へ浸潤している、がんが極端に大きいなどの進行癌に対しては、内視鏡外科手術が困難なことが多く、安全性を重視して開胸手術を行うこととなります。

 

一般的な術後の経過は、いかがでしょうか

術後4-6時間ほどで水分摂取が可能となり、手術翌日の昼から食事開始となります。大きな傷と比べると痛みが少ないので、多くの方は手術翌日から歩行開始となります。
胸腔鏡下での肺部分切除では、術後の平均在院日数は 3-7日です。胸腔鏡下またはロボット支援下での肺葉切除、区域切除では、術後の平均在院日数は約10日です。ただ術後の経過、入院日数は、創部の大きさ、内視鏡手術に加えて、患者さんの年齢、全身状態、併存疾患の有無、術後の胸腔ドレーン(管)の留置期間などによります。
また胸部の手術では、肋骨に沿って切開するため創の大きさに関わらず肋間神経による痛みが、術後の経過に影響します。

 

手術創はどのようになりますか?

完全胸腔鏡視下手術では、約 1-2cmの創切開を 3、4か所行います。そのうち、肺を取り出すために 1つの創は 3-5cmに広げます(写真1)。最近では、3-5cmの創1つのみで行う単孔式胸腔鏡手術も、早期肺がんの方を中心に行っています。ロボット支援下手術では、胸腔鏡下と傷の位置が少し変わりますが、約1-2cmの創が3-4か所、3-5cmの創が1か所で行っています。
開胸の手術では、約10cmの開胸創を主体にして手術を行います(写真2)

 
  • 写真 1 完全胸腔鏡下手術後の傷

  • 写真 2 開胸手術後の傷

おもなメリットは何でしょうか

開胸手術に比べ視野がいいことがあげられます。現在のカメラは解像度が高く、詳細に胸の中を観察し、さらに拡大視することもできますので、安全で確実な手術が行え、出血量も開胸手術と比べると格段に少なくて済みます。胸腔内の癒着剥離も、胸腔鏡のほうが素早く行うことができます。また、筋肉、肋骨の切離をほとんど行わないために、術後の痛みが少なく、呼吸機能も保たれます。当然、傷も小さくてすみます。
2018年より導入したロボット手術は、今までに述べた胸腔鏡下手術のメリットに加え、3Dの高精細カメラや関節付きの自由に操作できる鉗子、手ぶれの補正機能などの特徴があり、低侵襲かつ「より繊細な」手術を行うことができることがメリットとなっています。

 

現在の取り組みについてお聞かせください

近年CT検診の普及により小さな肺病変が発見される機会が増加し、その診断・治療には胸腔鏡手術がよい適応とされています。
しかし、小さいが故に手術中に胸腔鏡による鏡視下観察では小型病変の同定が困難な場合も多く、小さな開胸をして実際に触診を要しているのが現状です。現在こうした小型病変の術中同定法を開発中です。

 

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