心臓血管外科領域 弁膜症・虚血性心疾患 内視鏡外科手術

2024年4月1日

心臓血管外科領域

弁膜症・虚血性心疾患

弁膜症、虚血性心疾患

ハートセンター 心臓血管外科 教授  塩瀬 明

心臓血管外科領域の内視鏡手術について、
心臓血管外科 塩瀬 明教授が回答します。

心臓血管外科での内視鏡手術は、いつ頃から始まりましたか?どのくらいの症例数がありますか?

内視鏡を用いた冠動脈バイパスグラフト採取手術は1999年より行っていましたが、内視鏡による手術が一般的でなかったために、一時中断していました。その後新たに内視鏡下血管採取器具が開発され、当科では2006年 3月より再導入し、現在までに200名以上の方にこの手法を用いた手術を行っています。

手術の適応についてお聞かせください。

狭心症もしくは心筋梗塞に対して冠動脈バイパス手術を行う方のうち、大伏在静脈(下肢の静脈)を使用する場合に内視鏡的な採取が行われることがあります。特に糖尿病や透析中の方にはメリットがあるかと考えています。

一般的な術後の経過は、いかがでしょうか。

冠動脈バイパス手術では術後集中治療室での治療を要しますが、翌日もしくは翌々日には一般病棟に移ります。早期よりリハビリを開始し、早い方では手術翌日にトイレまで歩いて行くことが可能です。通常術後 2、3日目には自力歩行ができるようになり、 1週間から10日目に造影CT検査または心臓カテーテル検査を行った後、 2週間程度で退院となります。

内視鏡を用いるのは冠動脈バイパス手術のうち心臓につなぐ血管(グラフト)を採取する部位のみとなりますので、全体の術後経過そのものには大きな違いはありません。ただし、術後の傷の感染などの合併症発生率が少ないため術後平均入院日数は少なくなります。

手術創はどのようになりますか?

写真 1、2にそれぞれの手術創の一例を示します。従来法では膝上から太ももの付け根までつながる大きく長い切開を行う必要がありましたが、内視鏡を用いることにより、大腿部内側膝の上(約 2、3cm)と太ももの付け根(約 1cm) 2か所の切開ですむようになりました。
  • 従来の手術創の一例

    写真 1 従来の手術創の一例

  • 内視鏡手術による手術創の一例

    写真 2 内視鏡手術による手術創の一例

 おもなメリットは何でしょうか。

傷口が小さいことによる美容上のメリットがありますが、外観だけの違いではありません。傷跡は自然に縮もうとする性質がありますから、長く大きな傷口があると足を動かしたり、特に正座する際などにはつっぱり感や痛みを強く感じることがあります。内視鏡手術を行った場合には傷口が小さいため、この痛みがほとんどありません。
傷口が小さく治りやすいため、傷口からの感染や傷のくっつき具合が悪いなどの合併症の発生が少なく、術後早い時期にシャワー浴、入浴が可能となります。このため手術後の平均入院期間が短縮します。また静脈を取った後には膝下にむくみが出ますが、内視鏡手術の場合はこのむくみが非常に少なくなります。
研究報告によると、内視鏡による手術によって創合併症の発症の減少、患者満足度の向上、術後の痛みの軽減、在院日数の短縮が認められたと報告されています。

現在の取り組みについてお聞かせください。

内視鏡的グラフト採取手技について、他施設で技術指導を行っています。心臓血管外科においては内視鏡が使用できる範囲は限られていますが、徐々にこの範囲を広げて、低侵襲手術を行うことができるよう新たな技術習得に取り組んでいます。
ただし心臓血管外科における内視鏡手術は低侵襲であり美容上も大きな利点を持つ反面、術中の出血や不整脈などの緊急事態に対する対応が困難であるなどのリスクを伴う場合が多いため、その導入においては総合的な判断を行いつつ慎重に進めています。

内視鏡手術の適応に関するご相談・ご紹介は随時、受け付けています。

心臓血管外科外来までお気軽にお問い合わせください。
(TEL:092-642-5565 初診日:毎日 再診日:月ー金)
九州大学病院心臓血管外科
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