整形外科領域 肩関節、肘関節、手関節 内視鏡外科手術

2024年4月1日

整形外科領域

肩関節、肘関節、手関節


肩腱板断裂、変形性肘関節症、
三角線維軟骨複合体(TFCC)損傷、手根管症候群





整形外科 助教 小薗 直哉

整形外科:上肢(肩関節、肘関節、手関節)領域の内視鏡手術について、
整形外科 小薗 直哉助教が回答します。

上肢の内視鏡手術はいつ頃から始まりましたか?どのくらいの症例数がありますか?

004年頃から本格的に上肢への内視鏡手術(関節鏡)に取り組み、これまでに200名以上の患者さんに
行っています。(表)


 

手術の適応についてお聞かせください

上肢で適応となる疾患はさまざまなものがあります。代表的疾患として、肩関節では腱板(肩の内側の筋肉)断裂に対する関節鏡視下腱板修復術や反復性肩関節脱臼に対する鏡視下バンカート修復術(制動術)などがあります。手関節では手首尺側(小指側)の疼痛のために日常生活が困難となる三角線維軟骨複合体損傷、肘関節ではスポーツ選手などに多い変形性肘関節症関節に対し、早期のスポーツ・社会復帰を目標にした関節鏡視下関節形成術を行っています。

代表的な疾患とその治療内容

〇肩腱板断裂
腱板断裂は、中高年に多く見られる肩関節疾患の一つです。腱板断裂の原因は、加齢による変性と外傷が考えられます。50歳以降になると、腱板の変性が進み、腱板断裂が生じます。腱板断裂により上腕を挙上するときの痛みや、上腕を挙げにくいといった症状が出現します。腱板断裂の治療は、まず鎮痛薬や注射療法(ヒアルロン酸、ステロイド)などの保存治療を行います。しかし、3ヶ月以上の症状が続く場合は、腱板修復術の適応となります。当院では、鏡視下腱板修復術(Suture bridge法)を行っております。鏡視下腱板修復術は、1cm程度の小さな皮膚切開を5ヶ所加え、関節鏡下に専用のアンカーを用いて腱板を修復する低侵襲手術です。この手術により上腕挙上時の痛みを改善することが期待できます。
 
肩関節の痛みはみなさまもこれまでに一度は経験されたことがあるかと思います。

厚生労働省による国民生活基礎調査(H28年)によると、肩関節痛の有訴者率は、男性では第2位、女性では第1位であり、肩の痛みで困っている方はとても多いことがわかります。肩の痛みの原因は、五十肩(肩関節周囲炎)がよく知られていますが、そのほかに
腱板断裂、石灰沈着性腱炎、変形性肩関節症などがあります。また、50歳以上の4人中1人に腱板損傷があると言われています。五十肩と思って放っておいたら、痛みが続くため精密検査をしたところ、腱板断裂が見つかったということをよく耳にします。肩関節の痛みや腕が挙がらないといった症状は、日常生活動作を大きく制限する一因となります。
左 術前MRI:棘上筋断裂(+) 右 術後単純X線撮影
左 術前MRI:棘上筋断裂(+) 右 術後単純X線撮影
  • 図1:断裂した棘上・棘下筋

  • 図2:腱板にアンカー糸を通す

  • 図3:腱板修復後(Suture Bridge法)

鏡視下腱板修復術の治療成績:123例

男性:75例 女性:48例,手術時平均年齢: 66.8歳
(日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準: JOA score:100点満点)
JOA scoreは術前が69.2点に対して、術後6ヶ月では90.4点と有意に改善しました。
〇反復性肩関節脱臼
反復性肩関節脱臼は、初回の肩関節脱臼後に比較的小さな外力で肩関節が容易に脱臼する症状が特徴的です。原因は、前下方の関節唇損傷が考えられます。また、上腕骨頭と関節窩の損傷で関節窩前下方に骨欠損(骨性Bankart lesion)や、上腕骨頭の後外側の陥没(Hill-Sachs lesion)を認めることがあります。当院では、脱臼不安定感が持続する患者さんに対して、関節唇修復術(鏡視下Bankart法)を行っております。
 
MR関節造影: 前下方関節唇損傷(+)
MR関節造影: 前下方関節唇損傷(+)
  • 図1:断裂し弛緩した前下関節上腕靭帯

  • 図2:断裂した関節唇を把持

  • 図3:アンカー糸で関節唇を修復

一般的な術後の経過は、いかがでしょうか

変形性肘関節症に対する肘関節鏡視下形成術を例に説明します。これは、肘関節の中に生じた骨の棘(とげ)や関節ネズミと言われる遊離体によって肘に激痛や動きの制限が生じ、スポーツや仕事ができなくなってしまう疾患です。これを、通常の切開を用いて行う手術の場合、病変のある関節内に達するために周囲の筋・靱帯などを切るので、それら組織が修復するまでに術後 2、3週間のギプス固定が必要となります。さらに、ギプスを除去した後にリハビリを行うので、スポーツ・仕事への復帰までに 2、3か月を要します。

しかし、 関節鏡を用いた手術の場合 、周囲の筋・靱帯を損傷することなく病変部位に到達し、処置を行うことができるため、術後のギプス固定が不要で、早い人では翌日からリハビリを開始します。ギプス固定を行わないため、関節が硬くならず、リハビリ期間の短縮にもつながります。さらに、軽作業であれば術後 2、3週で仕事に復帰することが可能です。

手術創はどのようになりますか?

写真は鏡視下腱板修復術の手術創です。 約1cmの皮膚切開を5か所行い、関節鏡と専用の器具を使用し、腱板を修復しました。

鏡視下腱板修復術後の創部

おもなメリットは何でしょうか

傷が小さい・術後の痛みが少ないという一般的な内視鏡手術のメリットだけでなく、関節鏡を用いることにより、周囲組織を損傷することなく関節内に到達し、処置を行うことができます。さらに拡大して病変が観察できるので、「低侵襲」かつ、より「精密・正確」な治療が可能となっています。

現在の取り組みについてお聞かせください

肩腱板断裂を代表とする上肢の変性疾患に対して、的確な診断と低侵襲な治療、そして丁寧なリハビリテーションを心掛けております。また、痛みが少しでも早く治るための治療について、医師、看護師、理学療法士・作業療法士が協力して考えております。そして痛みでお悩みの患者さんに笑顔で退院していただけるように全力で治療を行っていきたいと考えております。

また、肩関節鏡視下手術では、腱板断裂のため「痛み」や「腕が上がらない」などの症状でお困りの方に積極的に手術を行い、多くの患者さんに喜んでいただいています。

内視鏡手術の適応に関するご相談・ご紹介は随時、受け付けています

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