顎口腔外科 歯科系

基本概要

外来窓口 北棟5F
初診日 月-金
再診日 月-金
ご連絡先 092-642-6445
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診療科紹介

顎口腔外科は1922年に九州大学医学部に歯科学講座が開設されたのが始まりで、2022年には100周年を迎える、歯科ではもっとも古い講座です。口の中や顎の腫瘍、顎変形症、口唇口蓋裂、外傷、抜歯などの手術、さらには炎症や粘膜疾患、ドライマウス(口腔乾燥症)、顎関節症など幅広く治療に携わる診療科です。

主な対象疾患とその治療

埋伏歯(まいふくし)

永久歯では乳歯に比べ、萌出(ほうしゅつ)に関連した異常がおこることが多いものです。先天的な欠如に加え、歯があるのに顎骨の中に埋まったままで萌出しない(埋伏歯)場合も少なくありません。とくに智歯(ちし:親知らず)では、埋伏歯である場合の頻度が高く、しばしば抜歯の必要があります。智歯は退化傾向が強く、生える時期も極端に遅く、さらに最も奥に生えてくるなど、萌出に伴う障害を受けやすく、高頻度に萌出異常をおこします。先天的に欠如する頻度も高く、萌出してこなくても異常とはいえません。また埋伏(埋伏智歯)することも多くみられます。下顎(かがく)の智歯では、たとえ萌出しても傾斜したり、水平位に半分埋伏(半埋伏)したりすることはよく知られています。智歯の傾斜や水平位の半埋伏は、第二大臼歯の後ろの面を不潔にし、放置すると深部にう蝕(むし歯)をつくります。また、智歯のまわりは不潔になりやすく、しばしば炎症をおこします(智歯周囲炎)。このため、このような状態の智歯は通常抜歯の対象となります。埋伏智歯も歯列異常や咬合(こうごう:噛み合わせ)異常をひきおこす可能性があり、また時として、埋伏智歯から嚢胞(のうほう:液体を入れた袋状の病気)や腫瘍(しゅよう)が発生することもまれにあり、抜歯するのを原則とします。

智歯周囲炎

智歯(親知らず)の萌出(ほうしゅつ)に際してみられる歯冠(しかん)周囲の炎症を、とくに智歯周囲炎と呼び、20歳前後の若い人に発生する頻度の高い疾患です。最も遅く、また最も後方に萌出する智歯は、萌出異常をきたし、完全萌出せず、歯肉が歯冠を部分的に覆ったままになりやすいため、不潔で、歯肉の炎症をおこしやすくなっています。 智歯周囲炎が周囲の軟組織や顎骨(がっこつ:あごの骨)に波及して顔が腫れたり、口が開きにくくなったりすることがあります。抗菌薬や消炎鎮痛薬を投与し、うがい薬などを併用して消炎させた後、余分な歯肉を切除(歯肉弁切除)したりしますが、萠出位置の異常があったり、炎症をくり返しているような場合は、智歯を抜歯します。

腫瘍(良性・悪性)

顎口腔領域の軟組織や顎骨に発生する腫瘍には、良性腫瘍と悪性腫瘍があります。良性腫瘍にはエナメル上皮腫、角化嚢胞性歯原性腫瘍、歯牙腫、線維腫、血管腫などがあり、悪性腫瘍にはがん腫、肉腫、悪性黒色腫、悪性リンパ腫、悪性唾液腺腫瘍などがあります。悪性腫瘍の大部分はがん腫で舌がん、歯肉がん(下顎歯肉がん、上顎歯肉がん)、口底がん、頬粘膜がんが多くみられます。この領域の悪性腫瘍は咀しゃく(噛み砕くこと)、嚥下(えんげ:飲み込むこと)、発音などの機能に関わる疾患で、その治療には機能の温存のみでなく整容的な面を考えた治療が必要です。そのため腫瘍切除後には機能的・形態的再建手術が必要になる場合もあります。

CLP(クリップ)

胎児がお腹の中でしだいに成長するとき、顔は左右から伸びるいくつかの突起が癒合することによってつくられています。しかし、この癒合がうまくいかないと、その部位に裂け目が残ってしまいます。その結果として、唇が割れた口唇裂(こうしんれつ)や、口蓋が裂けて口腔と鼻腔がつながっている口蓋裂が発生します。口蓋裂には、一見、口蓋に裂け目がないように見えても、粘膜下の筋肉の断裂がおきているものがあり、これを粘膜下口蓋裂といいます。また、上顎の歯茎が裂けている場合は顎裂(がくれつ)といいます。これらの異常はしばしば合併します。口唇裂と顎裂の合併を唇顎裂(しんがくれつ)、顎裂と口蓋裂の合併を顎口蓋裂(がくこうがいれつ)、口唇裂、顎裂さらに口蓋裂の合併を唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)と呼びます。

これらの異常の発生する頻度は、日本人では約500人の出産に1人の割合で、日本人に多い先天異常といわれています。妊娠の初期(顔や口蓋が形成される2-3か月ごろ)に、胎児に異常な力が加わったり、母体の栄養障害や精神的なストレス、さらに副腎皮質ステロイド薬や鎮痛剤など形態異常を誘発する薬(催奇性薬剤)を使ったり、風疹(ふうしん)にかかったり、放射線照射を受けることなどが要因としてあげられています。一部では遺伝によるものもあります。また、発生率は高齢出産になるほど高いともいわれています。 しかし、原因は不明なものが大多数を占め、7割に達しています。

審美的な障害や哺乳(ほにゅう)あるいは摂食障害、また発音障害などがみられます。また手足や耳の形態異常、ヘルニアや心臓の形態異常を合併することもあります。口蓋裂では口腔と鼻腔とが交通しているため鼻咽腔(びいんくう)が食物で汚染され、二次的に扁桃炎(へんとうえん)や中耳炎(ちゅうじえん)をおこしやすくなります。

出産直後から成人するまでの長期間にわたる、一連の治療が必要となります。それには口腔外科、矯正歯科、小児歯科・スペシャルニーズ歯科、形成外科、耳鼻咽喉科、小児科、言語治療科、一般歯科などによる総合治療が必要です。

口蓋裂児ではミルクを上手に飲んだり、顎の正常な発育をしたりするためのホッツ床という装具(プレート)を生後、可及的早期に作製し口腔に装着します。口唇裂を閉鎖する形成手術の時期は、抵抗力のできる生後3-6か月、体重5kg以上が目安とされています。一方、口蓋裂では言葉を覚え始める1歳半から2歳ごろに口蓋形成術(こうがいけいせいじゅつ)を行うのが理想的です。手術後は正しい発音ができるように言語治療を行います。手術後も鼻咽腔の閉鎖が不十分な場合は、発音が鼻声となります。このような場合には、スピーチエイドとよぶ補助器具を装着することもあります。口唇裂、顎裂、口蓋裂の患者さんは、もともと上顎の発育が不十分なうえに、形成術による術後の瘢痕(はんこん)のため、さらに発育がわるくなっているのが普通です。このため、上顎の成長が極端にわるく、下顎の前歯が上顎の前歯より前に位置する反対咬合(はんたいこうごう)が必発します。また、歯胚(しはい:歯の芽)が欠如し、歯が生えてこなかったり、歯並びや噛み合わせもわるかったりすることが多く、矯正歯科治療が必要となります。

口腔乾燥

口の中が渇く(口渇といいます)のは、水分の摂取量が少なかったり、急激に多量の水分が失われたりする時(たとえば激しい運動時)に生じます。慢性的に水分の摂取量の不足が続く場合は、全身的な疾患や何か重大な障害(たとえば腫瘍による嚥下困難)が考えられます。大量に水分を喪失する場合としては、高熱による多量の発汗や糖尿病による多尿など、原因となる重大な疾患があり、脱水の結果として口渇が生じます。抗ヒスタミン薬や制酸薬(せいさんやく)、降圧薬(こうあつざい)や向精神薬(こうせいしんやく)の服用でも唾液分泌は少なくなります。口腔がんや咽頭がんなどの放射線治療後では、顕著な唾液分泌現象がおこることがあります。鼻づまりによる口呼吸(こうこきゅう)は口腔粘膜の乾燥を促し、義歯が唾液の分泌を抑制する場合もあります。また、シェーグレン症候群でも、唾液腺の分泌機能が著しく障害されるために、口腔の乾燥(口腔乾燥症)がみられます。この病気では、同時に涙の分泌量も減少し、目の乾燥もみられます(「唾液腺の疾患」の項の「シェーグレン症候群」をご覧下さい)。治療はシュガーレスガム、レモンなど唾液分泌を促進させるものを摂取する、人工唾液で唾液を補充するなどの対症療法が効果的です。近年、シェーグレン症候群による口腔乾燥に対しては、唾液分泌を促進させる薬剤である塩酸セビメリンや塩酸ピロカルピンが開発され、高い効果を認めています。また、巨赤芽球性貧血(きょせきがきゅうせいひんけつ)や鉄欠乏性貧血(てつけつぼうせいひんけつ)など、全身性疾患の部分症状として、萎縮性の舌炎とともに口渇がみられる場合があります。このような場合は、原因疾患に対しての治療が必要になります。

顎変形症

顎変形症は、顎の発育異常で、顔面形態の異常や機能障害を伴うものを顎変形症といいます。生まれつきのもの(先天性)と、生後に生じたもの(後天性)とがあります。

上顎後退症は、上顎の骨の成長が悪いために、上顎が陥凹したようにみえます。唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)の術後やダウン症候群で多くみられます。下顎の歯列が上顎の歯列に対して前方で噛み合っているのが特徴です。

下顎後退症は、下顎の骨の成長が悪く、鳥の横顔のようにみえます(鳥貌 ちょうぼう)。顎の関節が外傷や感染などにより傷害された場合(顎関節強直症:がくかんせつきょうちょくしょう)によく生じます。

上顎前突症は、上顎の骨が異常に発達したため、咬合時に上顎の前歯が下顎の前歯より異常に前の方にあります。これには、単に歯のみが突出している歯性のものと、上顎の骨自体が前突している骨格性のものとがあります。歯性のものでは口を閉じても前歯が口から出ていることが多く、乳幼児期の指しゃぶりや口呼吸などの悪習慣によって生じることが多いといわれています。骨格性のものでは、顔の中央部が突出してみえます。

下顎前突症は、下顎の骨が異常に発達したため、咬合時に下顎の前歯が上顎の前歯より前方にあります。反対咬合、俗に「受け口」ともいいます。顔の中央部がやや陥凹し、顔の下半分が長く、横からみると、皿様あるいは三日月様にみえます。この異常は日本人にとくに多くみられます。上顎前突症と同様に、歯性と骨格性のものとに分けられます。

以上のほか、咬合時に上下の前歯にすき間を認める開咬症(かいこうしょう)や、下顎骨が左右非対称で、このため顔も非対称となる顔面非対称(がんめんひたいしょう)などの異常があります。開咬症では、口を閉鎖できないため口呼吸となり、口腔乾燥症の原因となったり、咀しゃくや発音にも障害をきたしたりします。これらの病態は組み合わさって生じることもあります(小上顎症+下顎前突症、下顎前突症+下顎非対称など)。

いずれの場合も、歯並びを矯正しただけでは十分な結果はえられず、外科的に矯正する顎矯正手術が必要です。顎変形症の治療には、手術のみならず、その前後に矯正治療による歯の移動が必要です。手術によって、一時的に治療前よりも咬合のずれが大きくなることがありますが、手術による骨格的な移動を見越しての移動なので仕方ありません。手術は、多くの場合、口の中の切開によって行われるので顔に傷がつくことはありません。異常のある顎骨を骨切りし、正常な位置まで移動させます。移動後は骨切りした部位をプレートやスクリューなどで固定します。それに加えた口の中の矯正器具を使って、一定期間、上顎と下顎があまり開かないように抑制するのが一般的です。その後、徐々に口を開ける練習(リハビリ)を行います。あとは歯の位置の微調整をするために術後矯正治療を行います。

その他

口腔悪性腫瘍に対する治療方針については、耳鼻科や腫瘍内科などと連携を行い、九州大学がんセンターの口腔部会でカンファレンスを行い、一人一人の患者さんにベストの治療を選択できるように日々取り組んでいます。また、口唇口蓋裂については専門外来(CLPクリニック)を開設し、出生前からカウンセリングを行い、両親の不安や疾患に対する偏見を取り除くようにしています。また、出生後は早期に往診を行い、治療説明や哺乳指導を行います。さらにCLPクリニックでは小児歯科や矯正歯科など他の専門科と連携を取って包括的チーム医療を行っています。