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病院からのお知らせ 2018年03月23日

あなたに合った歯科治療 Vol.2 -顎関節症外来-

はじめに

顎関節(がくかんせつ)は頭の骨(頭蓋骨)と顎の骨(下顎骨)をつなぐ関節です。関節の上の骨と下の骨の間には関節円板という軟骨のクッションがあります。顎関節は体の中の他の関節と異なり,左と右の2ヵ所の関節が同時に動いてお口を開けたり閉めたりしています。

顎関節症とは,「顎が痛い」,「口を動かすとカクカク音がなる」,「口を開けにくい」など,関節や周囲の筋肉(こめかみ,耳の近く,頬,えらの部分など)に痛みや動きの異常が現れることをいいます。顎関節症は今や虫歯や歯周病にならぶ“第三の歯科疾患”ともいわれており,学校歯科検診にも取り入れられています。

顎関節症は部位(「どこ?」)や原因(「なぜ?」)により,次のように分類されます。

顎関節症の種類

1.筋肉が痛むもの(咀嚼筋痛障害):

「咀嚼筋(そしゃくきん)」というお口を開けたり閉めたりする筋肉が痛むもので,食事中などに頬やこめかみが痛むのが特徴です。
 

2.関節が痛むもの(顎関節痛障害):

関節に痛みの原因があるもので,お口を開けたり閉めたりするときに耳の中や周りが痛むのが特徴です。
 

3.関節円板がズレているが,お口は開けられるもの(復位性顎関節円板障害):

関節内の軟骨(関節円板)にズレがあるもので,お口を開けることはできるものの,開けるときに“カクッ”という音が鳴るのが特徴です。
 

4.関節円板がズレていて,お口が開けられないもの(非復位性顎関節円板障害):

関節内の軟骨(関節円板)がズレて関節の動きを邪魔しているもので,顎が引っ掛かってお口が十分に開かず,食事にも支障が出るのが特徴です。
 

5.関節の骨が変形しているもの(変形性顎関節症):

骨に変形があって関節内部に損傷があるもので,お口を開けたり閉めたりするときに“ジャリジャリ”という音が鳴るのが特徴です。

また,顎関節症ではなくても顎の関節付近が痛む病気(頭痛,神経痛,血管の疾患,歯や耳の疾患など)はたくさんありますので,これらの病気と見分け,顎関節症であればどのタイプなのかを診断することが重要です。

顎関節症の病因は?

顎関節症は病因を特定することが難しい疾患の一つです。例えば,「硬い食べ物が好き」「口を使う楽器の演奏をする」「長時間のパソコン業務を行っている」「よく重いものを持つ」といった日常生活における問題や,「日中に食いしばっている」「寝ているときにハギシリしている」といった癖の問題,「ボールがぶつかった」などのケガによるもの,精神的なストレス,遺伝的な問題など多くの病因が絡み合って発症すると考えられています。
 

顎関節症の頻度は?

平成28年度の歯科疾患実態調査によると,「口を大きく開け閉めしたとき顎の音が鳴りますか?」という質問に「はい」と回答した方は約15%(男性11.6%,女性17.7%)で,同じく「口を大きく開け閉めしたとき,顎の痛みがありますか?」という質問に「はい」と回答した方は3.3%(男性2.6%,女性3.9%)でした。
 

診断

顎関節症外来では適切な治療を行うための各種検査を行っています。


・筋肉や関節の触診

お口を開けたり閉めたりする筋肉や関節周辺を指で押し,どこに痛みがあるのかを探ります。


・顎の動きの検査

開口量測定:お口をどれくらい開けられるかを測定します。通常,4cm弱(指2本半ほど)開けられれば問題ないとされています。
横の動きの評価:お口の開け閉め時に顎が右や左にズレて動いていないかを検査します。また,顎を前後左右にどのくらい動かせるかを測定します。
関節の音の評価:お口の開け閉め時に雑音(カクカク,ジャリジャリなど)が無いかをチェックします。


・レントゲン検査

関節の骨の形に異常が無いかをチェックします。目的により「回転パノラマX線」「顎関 節部側方X線」「顎関節部CT」などの撮影を行います。



・MRI検査

筋肉や関節円板に異常が無いかをチェックします。
 

治療

治療には可逆的なものと非可逆的なものがあります。非可逆的な治療とは,「切る」「削る」など,行う前の形・状態に戻すことができないものをいいます。可逆的な治療には薬物療法,スプリント療法,理学療法などがあり,体への直接的な侵襲がほとんどないものをいいます。
顎関節症は時間経過とともに改善し,治癒していくことが報告されています。顎関節症外来では非可逆的な治療は極力控え,可逆的な治療を優先して行なうことで顎の痛みの軽減や運動の回復を目指します。


・薬物療法

消炎鎮痛剤(痛み止め)を処方し,症状に応じて服用していただきます。

・スプリント(マウスピース)療法

睡眠中の食いしばりやハギシリでの噛む力は,普通に噛んでいるときの数倍にもなると言われています。食いしばりやハギシリによる関節や筋肉,骨や歯への負担を軽くするため,夜間お休みの時にマウスピースを装着していただく治療法です。
 

・理学療法

顎運動訓練,開口ストレッチ:お口を開けにくい症状があるときに行う訓練です。指の力を借りて,ストレッチ的な開口を無理のない程度で数回行います。
冷温湿布法:患部に湿布を貼って血行を良くし,痛みを和らげる治療法です。
低周波療法:「マイオモニター」という機械を使って皮膚の上から筋肉に電気刺激を与え,筋肉をマッサージする治療法です。


・パンピングマニピュレーション

顎関節の中に麻酔をしてから顎を手で動かし,ズレた関節円板の位置を治す方法です。


・顎関節腔洗浄法

関節内に注射の針を2本(注入用と排出用)通し,関節の中を生理食塩水で洗う方法です。


・ご家庭での注意事項

  • 硬い食べ物(フランスパンやスルメなど)や大きな食べ物は避ける。
  • 頬杖,うつぶせ寝,長時間のデスクワークなどを控える。
  • 日中の噛み締めに気づいたら顎の力を抜く。
  • フルートやサックスなどの演奏は控える。
  • スポーツによる外傷を避ける。
  • 十分な休養をとる。
など,顎関節に負担をかけないように心がけましょう。