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病院からのお知らせ 2022年10月06日 九州大学病院眼科

糖尿病網膜症の進行に関わるメカニズム、網膜表面での免疫細胞自己増殖を発見


糖尿病網膜症の進行に関わるメカニズム、網膜表面での免疫細胞自己増殖を発見

ポイント
1. 糖尿病網膜症において、失明に至る末期では網膜症が網膜内から網膜外の硝子体(眼球内のゼリー)に進展しますが、その進展機序は不明でした。
2. 本研究で、網膜と硝子体の境界である網膜硝子体界面に存在する免疫細胞(マクロファージ)に着目し、糖尿病網膜症では血管内皮増殖因子(VEGF)という因子の上昇によりマクロファージの自己増殖が起きていることを発見しました。
3. 現在、VEGF 阻害薬は糖尿病黄斑浮腫や加齢黄斑変性に使用されていますが、この薬剤により硝子体界面マクロファージの増殖が抑制され、糖尿病網膜症において増殖期への進展が抑制されるメカニズムが示されました。

概要
糖尿病網膜症は糖尿病の進行に伴い発症する網膜の病気です。糖尿病網膜症の初期は網膜内の出血や浮腫が観察され、多くは自覚症状がありませんが、放置すると末期である増殖糖尿病網膜症に進展し失明に至ります。この増殖期では病気が網膜の中から網膜外の硝子体(眼球内のゼリー)へと進展して行きます。しかし、この進展メカニズムは分かっていませんでした。

九州大学大学院医学研究院眼科学の園田康平教授、中尾新太郎臨床准教授(九州医療センター眼科医長)らの研究グループは、糖尿病網膜症患者さんの光干渉断層計という検査機器の画像解析によって、病気の進行とともに網膜と硝子体の境界である網膜硝子体界面において高輝度反射物質が増加していることを観察しました。また糖尿病網膜症モデル動物において、この高輝度反射物質が免疫細胞(マクロファージ)であることを突き止めました。さらに糖尿病網膜症で上昇する血管内皮増殖因子(VEGF)という因子により、このマクロファージが自己増殖を起こし、一方でVEGF 阻害によりこの増殖が抑制されることを見出しました。

VEGF 阻害薬は現在、糖尿病黄斑浮腫や加齢黄斑変性に使用されていますが、臨床試験の結果からその投与により糖尿病網膜症の病期が改善することが示されています。今回の結果より、糖尿病網膜症においてはVEGF 阻害薬により網膜硝子体界面のマクロファージ活性化が抑制されることが、失明につながる増殖期への進展を抑制するメカニズムの1つと考えられます
本研究の結果は2022年10月7日の米国科学雑誌「Diabetes」掲載されました。


■糖尿病網膜症の悪化メカニズムに網膜硝子体界面でのマクロファージ自己増殖が関与する

<研究の背景>
糖尿病の有病者は国際糖尿病連合の調査によると、2017年現在で世界で4億2500万人に上ると推計されています。糖尿病患者さんのうち、失明につながる末期の糖尿病網膜症は7.2%とされており、手術などが必要となります。糖尿病患者さんの中でも、この末期の糖尿病網膜症を発症する方もいれば、発症しない方も存在し、その進行メカニズムは不明でした。そのため、治療や診断に結びつく進行メカニズム解明が求められています。

<論文情報>  
掲載誌:Diabetes
タイトル:Identifying Hyperreflective Foci in Diabetic Retinopathy via VEGF-induced Local Self-Renewal of CX3CR1+ Vitreous Resident Macrophages.
VEGF による CX3CR1 陽性硝子体内組織マクロファージの局所自己増殖による糖尿病網膜症における高輝度物質の同定

著者名:山口宗男1、中尾新太郎12、和田伊織1、的場哲哉3、有馬充1、海津嘉弘1、白根茉利子1、石川桂二郎1、中間崇仁1、村上祐介1、水落昌晴4、白石渉5、山崎亮5、久冨智朗6、石橋達朗1、澁谷正史7、Alan W. Stitt8、園田康平1
(所属)1. 九州大学医学研究院 眼科、2. 九州医療センター 眼科、3. 九州大学医学研究院 循環器内科、4. 興和株式会社、5. 九州大学医学研究院 神経内科、6. 福岡大学筑紫病院 眼科、7. 上武大学 医学生理学研究所、8. クイーンズ大学ベルファスト

DOI:10.2337/db21-0247

<お問い合わせ>
研究に関すること
九州大学病院眼科 納富昭司
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