消化器領域 胃 内視鏡外科手術

2023年4月1日

消化器領域

胃がん、食道胃接合部がん、胃GIST等

  • 消化管外科 診療准教授 大内田 研宙

  • 消化管外科 診療准教授 沖 英次

消化管外科における胃を対象とした内視鏡外科手術

当消化管外科では、1991年に世界で初めて胃がんに対して腹腔鏡下幽門側胃切除術を行いました。内視鏡外科手術(腹腔鏡下手術)が黎明期であった1990年代後半から、多くの技術、経験を積み重ね、現在では胃全摘や幽門側胃切除、噴門側胃切除など、進行がんを含むほぼすべての患者さんに腹腔鏡下手術をおこなっています。
九州大学消化管外科には、実際の手術ビデオで審査される「日本内視鏡外科学会技術認定」の専門資格をもった医師が10名以上在籍しており、高い技術レベルが要求される手術の低侵襲化(身体への負担軽減)を実現しています。また、2000年には手術支援ロボット、ダヴィンチを使った胃切除術も開始しています。このロボット手術は2018年に通常の保険診療となり、この先進的な医療を安全・確実に提供できるようになりました。
 九州大学消化管外科にはロボット支援手術においても「日本内視鏡外科学会ロボット支援手術プロクター」と呼ばれるロボット手術指導者資格を持つ医師が2名、専門のトレーニングを受けて認定されたロボット支援手術の術者資格を持つ医師が10名在籍しており、医療チームとして高い技術レベルの手術を提供しています。2022年には胃悪性腫瘍に対する手術を腹腔鏡下あるいはロボット支援で計139例施行しています。その他、十二指腸のNETやGIST,腺腫に対する低侵襲手術も行っています。

先進的外科治療の早期導入

消化管外科では3D内視鏡やロボットを用いた手術をいち早く取り入れるのみならず、新しい胃がんの手術法や機器の開発も積極的に行ってきました。ロボット支援手術では3次元画像情報により立体認識が向上し、多関節のロボットアームで操作性が向上しています。さらに人間の手ではどうしても発生する手ぶれを補正して安定した手術が可能になり、胃がんに対する手術でも極めて有用です。
   
    図1 ロボット支援下手術の様子   左:患者側           図1 ロボット支援下手術の様子  右:術者側
 

胃に対する内視鏡外科手術(腹腔鏡下手術)の一般的な術後経過

一般的な術後の経過を説明します。ほとんどの方は手術翌日から歩行、水分摂取を開始します。開腹手術に比べ腹腔鏡手術は傷が小さく痛みが少ないので、このような早い時期からの活動が可能となります。幽門側胃切除(胃をおよそ 3分の2切除)の患者さんは 2日目から、胃全摘術の患者さんは 3日目からやわらかい食事から開始してもらいます。少しずつ硬いご飯を食べるようにして、リハビリを行いながら7日目以降に退院となります。もちろん、肺や心臓に持病のある患者さんや合併症のある患者さんはそれに合わせて入院期間が長くなることもあります。胃の手術後は食事摂取の方法が手術前とは異なりますので、退院前に食事指導を受けていただいています。
退院後は散歩から始めて自身の体力回復に合わせて、もともとされていた運動を行ってもらえます。一般的に退院後 1-2週間で職場への復帰が可能です。もちろん仕事の内容や復職の必要性によって復帰までの期間は異なってきます。当科では術後早期に術前と同様の生活に戻ってもらうことが、その後の生活の質(QOL)にはとても大切なことと考え、上記のような低侵襲手術と術後早期回復プログラムを実施しています。

胃に対する内視鏡外科手術(腹腔鏡下手術)の長所


図2  手術後の傷
手術創はへそに約 3−4cm程度の創(ここから切除した胃と周囲リンパ節をひとかたまりに取り出します)と、1.2cmの創が 2か所、0.5cmの創が 3か所できます。0.5cmの創は数か月でほとんどわからなくなります(図2)。小さな手術創の他にも内視鏡外科手術にはメリットがあり、開腹に比べ拡大視野がえられることがその一つです。現在の腹腔鏡カメラは解像度が高く、詳細におなかの中を観察できますので、微小な血管や神経などもしっかりと観察して組織を剥離、切離することができます。それにより安全で確実な手術が行え、出血量も開腹手術と比べると格段に少なくて済みます。
また、手術中に腸管が空気に触れることもなく、直接手で触れることもありません。これにより術後に腸管の麻痺や癒着が起きにくいこともメリットです。このような理由で術後は腸の蠕動運動の回復が早く、食事を早期に開始できますし、その結果、術後の入院期間も短くなり、早期の社会復帰が可能となります。

今後の取り組み

当科では、日本内視鏡外科学会技術認定取得者を中心に胃外科の専門医が診療にあたっています。胃がん以外では、最近、特に症例が増加しつつあるGIST(Gastrointestinal Stromal Tumor, 消化管間質腫瘍)の治療も積極的に行っています。また、より低侵襲な治療を目指して、消化器内科と協力した内視鏡・腹腔鏡合同手術(LECS, Laparoscopy and Endoscopy Cooperative Surgery)も行っています。これからも一層安全・確実・かつ侵襲が少ない先進的な外科手術を多くの方々に提供できるように、日々診療に取り組んでいます。

内視鏡外科手術の適応に関するご相談・ご紹介は随時、受け付けています。

消化管外科外来までお気軽にお問合せください。
消化管外科 診療案内はコチラ