消化器領域 肝臓 内視鏡外科手術
消化器領域
肝臓
肝細胞がん・移転性肝がん・肝のう胞・肝腫瘍
肝臓・脾臓・門脈・肝臓移植外科 教授 吉住 朋晴
消化器領域:肝臓の内視鏡手術について、
肝臓・脾臓・門脈・肝臓移植外科 吉住 朋晴教授が回答します。
肝臓の内視鏡手術はいつ頃から始まりましたか?どのくらいの症例がありますか?
わが国では、1991年に肝のう胞に対する腹腔鏡手術が初めて報告されています。1992年には肝細胞がんに対する腹腔鏡手術が行われ、以後急速に症例数が増加しています。当科では1994年から腹腔鏡下肝臓手術を開始し、2010年から2023年12月までに529例の腹腔鏡下肝臓手術を行ってきました。また、図 1に最近の肝切除術における腹腔鏡手術数の推移、表1に2022年における腹腔鏡下肝切除症例の内訳を示します。2022年よりロボット支援肝切除を導入し、2023年12月までに47例でロボット支援肝切除術を行なっています(図1の黄色)。
どのような患者さんが手術の適応になりますか?
2010年から肝外側区域切除と肝部分切除が保険適用となり、さらに、2016年からは肝臓切除のほぼすべての術式が保険適用となりました。2022年4月よりロボット支援肝切除が保険適用となりました。疾患では、肝細胞がん・肝内胆管がん・転移性肝がんなどの悪性疾患、また肝のう胞・肝血管腫などの良性疾患が適応となります。
一般的な術後の経過についてお聞かせください
当科での腹腔鏡下肝切除では、通常クリティカルパスを用いています。手術は全身麻酔で行いますが、手術の翌日にはお腹に入っている管(ドレーン)を抜去し、水分・食事摂取が可能です。傷が小さいので、術後の痛みは少ないというメリットがあります。肝切除の術式・切除する肝臓の大きさにもよりますが、術後 5-7日で退院可能です。
手術創はどのようになりますか?
肝臓の開腹手術を安全に行うには、お腹に大きな傷を開ける必要があります。腹腔鏡手術では、 5mmから12mmの穴を 5-6か所に開けて手術を行うことが可能です。腹腔鏡で肝切除を行った時の傷(写真 1)、従来の開腹手術で肝切除を行った場合の傷(写真 2)を示します。
この手術のおもなメリットは何ですか?
腹腔鏡手術に用いる手術器具の改良や術式の工夫により、腹腔鏡下手術でも、開腹手術とほぼ同じ手術を行うことが可能となってきました。腹腔鏡による拡大視効果や気腹による止血効果により、術中出血量は開腹手術と同等か、より少ないとする報告もあります。また、従来の傷ではお腹の筋肉(腹筋)を大きく損傷せざるをえませんが、腹腔鏡手術では筋肉の損傷が少ないため、術後の回復も早くなります。
現在の取り組みについてお聞かせください
当科では、腹腔鏡下肝切除術にいち早く取り組んできました。その後の手術時の体位・手術器具などのさまざまな工夫により、現在では肝切除術の半数以上を腹腔鏡で行っています。さらにロボット支援肝切除はより繊細な手術が可能となり、積極的に行なっています。
当科は、わが国の肝移植施設で最も多くの肝移植を行っています。2022年4月より生体肝移植ドナー手術において、一部の術式(外側区域グラフト採取)で保険適用になりました。当院でも該当する生体肝移植ドナー手術に腹腔鏡下手術を安全に行なっています。